令和2年度表彰式記念講演会

◆日時 令和2年10月26日(月)午後3時10分~

◆場所 名古屋ガーデンパレス

◆講演テーマ

    「変革・実践」社員とともに、体質の強い会社をつくる~コロナ禍の今こそ、未来へ~

◆講師 エイベックス株式会社

代表取締役会長 加藤明彦氏

(愛知中小企業家同友会会長)

◆講演要旨

 コロナ禍をどのように乗り切っていくか、大切なのは経営者の姿勢です。社員と経営者が一緒になって乗り切っていこうとする姿勢が大切なのです。

 当社は、決して順調に成長してきた企業ではありません。今はパートを含め従業員数430名ほどですが、以前は従業員数20名ほどの企業規模で社員は増えず、逆に社員がやめていく時期もありました。当時は、社長が頑張れば社員がきっとついてくる、売上も伸びると思っていました。しかし売上は伸びず、社員はついてきませんでした。社長中心の会社でした。

 優秀な社員にはずっといてほしい、他の社員はそれを見習えないのか、なぜできないのかと思っている経営者がいらっしゃると思います。今のままでは作業効率が上がらず利益がでません。利益が出ないと十分な給料も払えないので、優秀な社員から退社してしまいます。しかし、ここで考えてください。社員を採用することを決めたのは誰だったでしょうか。経営者自身だったのではないでしょうか。 

 当社はリーマンショックの時には、半年で70%の売上減(対前年比)となりましたが、その時、一人もリストラせず、全社一丸となって業績を回復させました。雇用は何が何でも守る・・解雇、減給ゼロの宣言をしました。

 経費の中で一番大きなウエイトを占めるのは人件費です。売上げが大幅ダウンする中、人件費の削減に手をつけるべきか悩みました。損益計算書(P/L)上では人件費という費用で計上されますが、貸借対照表(B/S)上、人は資産(自己資産)と捉えました。経営者の決断として、人員削減、給与カットせず、賃金手当は金融機関からの借入れ等で対応しました。非常時は自社の大切なものを守る姿勢が、社員との信頼関係を築くきっかけとなりました。 

 リーマンショックは金融バブルの崩壊で市場規模自体が縮小した時期でした。短期的には資金手当、助成金の活用、経費の節減に努め、長期的には、新規顧客開拓の推進を図りました。

 また、この時の教訓から「切削・研削」のコア技術を中心に自社ドメイン(存在領域)をより明確化しました。当社は、自動車部品製造業であり変速機、エンジン部品が主力商品でしたが、今後、電気自動車の開発・普及が進めば、売上が減少してしまいます。このままでは伸びない。事業領域を自動車部品製造という枠にとらわれては伸びる余地はありません。「切削・研削」加工を行う会社と捉えれば、自動車産業以外の分野にも顧客の対象になると考えました。

 しかし、今回のコロナ禍は令和2年4月期で50%減(対前年比売上)、5~6月期も大幅な落ち込みになりました。産業・市場構造が大きく動いています。今回も、雇用は絶対に守りました。仕事量が大幅に減ったので思い切って工場内の機械をストップさせ、自動化装置をつけ生産性の向上を図りました。品質確保・保証体制の充実、EV化に向けての技術向上にも努めました。おかげで操業度7割でも黒字となる経営体質になりました。

 今、コロナ禍で苦しい状況ですが、一方で新たなビジネスチャンスをつかめる状況にあります。変化に対していかに柔軟に対応していくかが重要なポイントです。社員には変化に気づくようアンテナを高くし、それぞれの役割に応じて新しい情報をキャッチするよう指導しています。

 社員は経営者を選べません。社員はトップの決定についていくしかありません。会社は一人一人の社員の人生を預かっています。その社員の人生を豊かにすることが、社員の成長につながり、ひいては会社発展の原動力になると考えます。

 当社の強みは、と問われた時には「時間をかけて育てた社員がいること」と答えます。人材育成は難しいもので、社員教育も以前は、全員、金太郎飴式の同じ教育をしていました。しかし会社の業績は伸びませんでした。同じような教育をすれば同じような人間になる。お金をかけた割には成果が出ないことがわかりました。社員一人一人の考え方が違うなら、それぞれの個性を活かした教育が大切であり、組織での各々の役割を認識させ、ベクトルを合わせて同じ目標に向かうことが重要であることに気づきました。

 国では働き方改革の推進に力を入れていますが、当社では、真に働き甲斐のある会社にしていくことを目指しています。時間はかかりますが、社員各々の個性を活かした働きやすい企業風土づくりが大切であり、社員が成長した分、会社の発展につながると信じています。